エロスと神と収容所 エティの日記

数年前からアウシュヴィッツに興味を持ち、ホロコースト関連の本を読むようになりました。

先月、市川拓司さんの「吸涙鬼」を読んでいたときに、病床の主人公が手にしていた本がこの「エティの日記」です。
まだ読んだことのなかった本なので、興味深くなって読んでみることにしました。
ついでに、吸涙鬼がどうもわたしのなかでそりが合わなかったので、喉の奥に引っかかったような、なにかがわたしをこの本に向かわせました。

ユダヤ人の女性が書いた日記としては、「アンネの日記」がよく知られています。
エティはアンネよりも年上の20代後半の女性で、アンネがあの隠れ家生活で少女から大人への成長を見せたのに比べると、ある程度成熟した大人の女性の日記です。
そして彼女は、外的生活よりは自身の内面を重んじ、奔放な性生活も臆することなく綴っています。

はじめわたしは、そのエティのあまりにも強い自意識に付いていくことができず、何度か読むのを途中でやめようかと悩みました。
それくらい鮮やかに、生々しく、自分の内面を綴った日記です。
日記は本来他人が読むことを想定していないもの、だからわたしは覗いてはいけない他人の内面を覗き見したような気分になって、激しい抵抗にあいました。

それでも気にかかったのは、彼女のSへの想いと、ときどき表れるユングの名(Sはユング派の精神分析医)、彼女の向かおうとするところが、またわたしを本に戻らせました。

2年目を過ぎたころから、日記は様相を変えていきます。
彼女の精神の成長が、このたった1年半あまりに凝縮されています。
エティを通して、人類の愛はなにか、魂の救済はなにか、神はなんであるか(こう書いてしまうと、言葉に表すととても陳腐に見えてきてしまうのが誠に残念なのですが)教えられます。
はじめあれほど起こったエティへの抵抗は陰を潜め、最後には深い尊敬と敬愛を抱くようになりました。

彼女に訪れた運命は、その時代に襲った多くのユダヤ人と同様に残酷なものでしたが、彼女の精神はそれに侵されることがなかった、むしろその出来事が彼女をさらに高めたのは、アウシュヴィッツから生還したフランクルがいうように、出来事そのものが人を貶めるのではなく、そのなかでどう意味付けるかにかかっているのでしょう。
時代を越えて、普遍的なテーマであるといえます。

いまは日本では戦争がなく、まったく脅威がないといえば嘘になりますが、少なくとも日常で戦争を意識することのない平和な時代です。
平和であるからこそ、根源的な人間のありかたを追求することはむずかしいのですが(とても贅沢な逆説ではあるのだけれど)、だからこそ思想の自由も許されるこの現代で、改めて考えなければならないのだろうと思います。

エティはシンプルに、彼女の日記を通してそのことを示してくれました。




エロスと神と収容所―エティの日記 (朝日選書)

エティ ヒレスム / 朝日新聞社






関連記事
吸涙鬼
[PR]
by minori_sb | 2013-04-13 18:35 |


手作りお菓子と本の感想、日々のできごとについて


by minori

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

カテゴリ

全体

お菓子
映画
オムライス
カフェ・レストラン
お出かけ・旅行
日々のできごと
ごあいさつ

タグ

(25)
(15)
(15)
(14)
(13)
(12)
(12)
(9)
(9)
(8)

最新の記事

移転先のお知らせ
at 2018-09-17 19:47
ブログを移転します
at 2017-08-12 09:30
現実的な子供たち --メアリ..
at 2017-07-22 07:00
アイルランドのステンドグラス..
at 2017-07-19 07:30
3月の湯布院旅行 その2 ゆ..
at 2017-07-15 07:00

画像一覧

記事ランキング

以前の記事

2018年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
more...

その他のジャンル

お気に入りブログ

お茶の時間にしましょうか...
Good day ~...
喫茶去 所長のブログ
la la la kit...
one day roll
BAYSWATER
ゆるゆると・・・
BARON MAMA*S
Day by day
四 番 目 の 猫 Ta...
YASCH+Y
想い出cameraパートⅢ

検索