ことり

前回の「エティの日記」にすこし関連しますが、小川洋子さんは「アンネ・フランクの記憶」という本でお近づきになりました。
お名前は拝見したことがありましたが、実際に小説を読むのははじめてです。

胸がきゅーっとわしづかみになった感覚。
でも、実はなかではすごく優しく、柔らかく、それこそ小鳥の小父さんが幼稚園児たちに抱いたように、小鳥を包み込むような掴み方。
繊細で優しくて、でも理解されなくて時には(大抵は)誤解されることもあって、それでもどうかこの小さな世界を守っていてほしい、という想いが物語を通して感じました。

この地味な小鳥の小父さん。
華々しいところはまったくなく、お兄さんのようにポーポー語を操り自らの世界に埋没することもできず、世間と繋がってはいるけれど、どこか世間とお兄さんの世界の両方に片足ずつ突っ込んでいるからどちらにも中途半端であり、孤独で不憫なところが往々にしてあります。
しかも世間では彼は変人と称される部類なのではないでしょうか。

しかし、物語の全編を通して語られる小鳥の小父さんの生涯は、決して惨めなものではありません。

誰よりもお兄さんを理解し、お兄さんの世界を尊重し、お兄さんと世間(母親を含めて)の橋渡し役となったその姿は、優しさと温かさ、寛容さに満ちあふれています。
お兄さんの規則正しさを生きにくい性質と捉えず、何事にも細やかな規則的な手順に乗っ取って生活するその姿は、宗教的ですらあります。
後に鳥小屋の掃除を入念に毎日するその姿もそうですが、まるでお坊さんの毎日の修行のようであります。

村上春樹さんの「海辺のカフカ」に登場するナカタさんにちょっと似ていますね。
ナカタさんにもミノリは同じような想いを抱きました。
きっとナカタさんなら小鳥の小父さんとも話が合いそうだなあ。
でも、小鳥の小父さんのほうが片足を世間に残している分、感情表現は豊かです。

小父さんの誠実さは多くの場合報いられません。
でも、最後に登場する、あのメジロ。
小父さんはかつてのお兄さんの姿を見習って、鳥の尊厳を大切にしメジロに接します。
人でも鳥でも命の尊さは同じだと考えています。

あの美しい歌を唄うメジロは、ちいさな声ではあるけれど、小父さんのこれまでの生涯を全肯定する存在だったように思います。
束縛されず、自由に最後には(冒頭に戻りますが)外へ羽ばたいていく姿は、小父さんの魂を解き放ったようでもありました。

もちろんこれから苦難も多く待ち受けているだろうけれど、ちいさな鳥籠で過ごすことは小父さんの願いではなかったのだから、それで良かったのだろうと思います。





ことり

小川 洋子 / 朝日新聞出版



文中で紹介した本はこちらです。
小川洋子さんがアンネの隠れ家やアウシュヴィッツを訪ねます。

アンネ・フランクの記憶 (角川文庫)

小川 洋子 / 角川書店



ナカタさんが登場する村上春樹さんの小説です。
新作もすごい評判ですね。(まだ読んでいないです……)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

村上 春樹 / 新潮社





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by minori_sb | 2013-04-20 06:17 |


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