井戸へ潜っていくというメタファー -- ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編 --


ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)

村上 春樹/新潮社

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 改めて全編読み通すと、この物語はまさしく「ねじまき鳥クロニクル」なんですね。
なにを当たり前のことをいまさら言うんだ、と怒られるかもしれません。
でもこの発見は、実は初読のときにはそこまで到達できなかったことです。
だからいまさらながらに、そこにあったことを気づかなかった宝物を発見したように、嬉しいのです。
クロニクル(年代記、編年史)なんだなと。 

 ねじまき鳥クロニクルという大きな潮流のなかに、主人公と久美子さんの物語があって、赤坂親子もその流れの一部で、綿谷昇や加納姉妹、本田さんや間宮さん、猫のサワラ、とひとつひとつは一見繋がりのないなかで、実は複雑に絡み合っている。
実質的には笠原メイちゃんくらいです、この流れに関わりのない登場人物って。(だからこそメイちゃんはすごい。メイちゃんのすごさについて語り出すと、それだけでここのページが埋まっちゃいそうです) 


 世界の終りや海辺のカフカ、1Q84などの春樹さんの長編に共通するところですが、内面にひたすらに向き合っていくことがあると思います。ねじまき鳥クロニクルでは、主人公が奥さんである久美子さんを失って、そのことに気づいて、取り戻すために、内へ内へと向かっていきます。現実世界で考えれば、彼がしたことは失業を続け、日々を生活し、井戸へ潜ったことくらいです。おそらくそれまで向き合ってこなかったからこそ、見過ごしてきたこともあっただろうし、久美子さんを取り戻すことがひいては自分自身に向き合い、変容していくことに繋がっていったのでしょうね。 


 それは同時にとても危険なことでもあります。変化はなにかを得ると同時になにかを失うことに繋がります。場合によってはとりかえしのつかないくらい。 


 それでも。変わっていくことへの大きな流れに身を投じるとき、それは現実世界のことだけに目を配ればいいというものではないことを、物語は示していると思います。どちらが先とはいえない。同時進行かもしれないし内的世界から起こるかもしれない。変わろうとするとき、内的世界と現実世界の両方でそのプロセスがある。井戸の壁をすり抜けることはなくても、それに近しいことは、おそらく誰にでも起こりうることです。 


 ただ内的世界に埋没するのは危険。
で、改めてなにが大切かと振り返ったときに、主人公が日々ごはんをつくってそうじをして、区民プールに行って泳ぐんですよね。この日常に手を抜かないこと、この生活の基本が実はとても大切なのだと思います。



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第二部の感想を書くのを忘れていました。またいつか機会があれば。




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by minori_sb | 2016-05-22 10:25 |


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