カテゴリ:本( 45 )

アイルランドのステンドグラス作家 ハリー・クラーク

ハリー・クラーク

海野 弘(監修)/パイインターナショナル

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前々回に、由布院のステンドグラス美術館へ行ったことをちらりと触れました。
ステンドグラスについて詳しい説明がしてあって、それまでステンドグラスにつゆほどにも興味がなかったのですが(すみません)、「へー」「ほー」と興味深かったです。

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建物のなかは2階建になっていて、2階は各国ごとの特色あるステンドグラスが飾ってありました。
面白いのは、内装が国ごとのイメージで壁紙やカーテンがレイアウトされていたこと。
ドイツは三つ編みと童話のモチーフをイメージとかあった気がします。(すみません、前過ぎて忘れている…)

それで、その中で、アイルランドの部屋というのがあったのですね。
そこにあったのが、ハリー・クラークのステンドグラスです。

ハリークラーク(1889-1931)は、アイルランドのステンドグラス作家です。
そして、ステンドグラス作家としても有名なのですが、挿絵画家としての一面もあった。
イェイツやアラン・ポー、ゲーテのファウスト、他にもアンデルセンの童話の挿絵も描いています。

この美術館にあったのは、ステンドグラスによくあるキリストを描いたものでしたが、その脇にペン画のイラストも飾ってありました。
もう記憶が定かではないのですが、リトル・ピープルなんとかだったと思います。(タイトルだけでもメモしておけば良かった)
アイルランドはリトル・ピープルと由縁が深いですよね。
クラークの描いていたそのイラストは、色合いも暗くて結構不気味なところもあって、ファンタジックな妖精さんという感じではなかったのですが、なんでしょう、その独特な雰囲気になんともいえず、惹かれてしまいました。

ステンドグラスも、なんというか奥行きがあるんですよね。
思わず見入ってしまう。クラークらしさというのがあるんです。

でも、とにかくわたしはそのリトル・ピープルなるペン画にどうしようもなく惹かれてしまったのです。


わたしは美術館に行くと、ぐるぐると回って、最終的にその美術展の”マイベストワン”を見つけて、そればっかりじーっと飽きるまで見るんですが、今回はクラークのリトル・ピープルのペン画がそれでした。
全部の部屋を見終わったあと、結局その部屋に戻ってそれだけを15分くらいずーっと見ていました。(母と叔母を待たせていたので途中で諦めました…)
↑こういう特性があるので、芸術鑑賞は人と行くのは向いていないです。。いや、芸術だけじゃない。昔兼六園に行った時は松に感動して(木が好きなので)友人を大いに待たせて呆れられたので、基本集団行動が向かないですね。。


話を戻しまして。

ステンドグラスにも絵本の挿絵にもさして興味のなかったので、ハリー・クラークという人のこともそこで初めて知りました。
もちろんこの美術館には他にも有名なステンドグラス作家の作品がいくつか展示してあったのですが、その人たちのことは綺麗に忘れてしまってもう全く思い出せません。
わたしは基本的に名前を覚える作業がとても苦手なのです。
しかし、「これは忘れてはいけない」となんかすごく思ってしまって、がんばって覚えたんですね。
いまから思うと携帯にメモしておけば良かったんだけど、メモもしないで頭に一所懸命覚えさせました。


ステンドグラス美術館なので、当然のようにわたしの気に入ったそのリトル・ピープルのイラストの絵葉書は売ってなく。
クラークのステンドグラスの絵葉書は売っていたのだけれど、それは買う気にはなれなくて。


で、由布院から帰ってきて、それから何度かクラークのことを思い出して、また忘れて、また思い出してを繰り返して。


ついに画集を買ってしまいました!(トップに紹介した本です)



ハリー・クラークの生涯や、絵本や本の挿絵、ステンドグラスまで約180点が掲載されています。
残念ながら、わたしが由布院で見たリトル・ピープルのペン画はなかったのですが、たくさんのイラストにもうやっぱりこれだ、と。

昔好きだった漫画のイラスト集とかは買ったことが何度かあったのですが(あったのか)、こういう美術的なものを買うのは実は初めて。
いや、この本はソフトカバーで値段も3000円くらいなのでお安いほうかもしれないのですが。
自分的にはこういう風に買おうと思うまでに気持ちが突き動かされて、しかも買ってこんなにこれだと思えたのは、とても新鮮な体験でした。



絵画はどちらかというと印象派が好きで(ルノワールとかピサロとか)、あんまりこれ!というほどの好みはこれまで希求したことがなかったのですが、ああ、これは出会えて良かったなあと思えるものでした。
何気なく立ち寄った由布院のステンドグラス美術館で起こった、運命的な出会いでした。




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by minori_sb | 2017-07-19 07:30 |

出会ってしまった人 --バッテリーⅥ

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のんびりと最終巻までこぎつけました。
さっき過去ログを探していたら、なんと3巻から5巻まで感想を書いていなかったらしい。
いきなり最終巻の感想です。
原作も10年近くかかって刊行されていたんですね。 

きっと年代を違えて読んだら、感想は異なっただろうなと思います。
もし十代の、巧くんたちと同じ年代で読んだら、ただただ原田巧という人の凄さと格好よさに圧倒されたかもしれません。
巧くんは、とても格好いいです。
ひたむきに努力することを当たり前だと思っているところも、野球をやるために生まれてきたかのような才能も、不器用で言葉が足りないところも、たまに枠を外れてふざけて周りから驚かれるところも。 


でも、この作品のなかで気になったのは、豪くんや瑞垣くんですね。
このふたり立ち位置がそれぞれに“自分のすぐそばにものすごい天才がいて才能の差を嫌でも感じる”ポジションです。

この“すぐそばに”がポイント。
ちょっと距離感があると「あいつはすげえよなあ」で終わるのに、なまじ距離感が近い分、嫌でもいろんな思いを味わってしまう。

しかも、当人(巧や秀吾)は優越感なんか全くなくむしろ人間的には頼ってくる。
そりゃあ瑞垣くんみたいに中3にして人生悟って冷やかしたくもなりますよ。
本気でやればやるほど自分の劣等感をますます刺激されるわけですから。 


それでもこの作品のすごいところは、そこで最後の試合のそのためだけに、いかにみんなを本気にさせるかに、集約させていったところだと思います。
非公式の、卒業したメンバーも含めた練習試合。ただその一試合、一瞬のためにいろんな人が思いをそこへ投入していった。
「いま、ここ」がすべて。 

豪くんは序盤のあの屈託ないお人好しそうなところから、変わったなあと思います。

「こいつと出会ったことが良かったのか悪かったのか、囚われてしまったことが幸運なのか不運なのか、答えを出すことなど無意味なのだ。今はただ、ともに生きる。それで充分だ」(バッテリーⅥ P290) 


出会わなければ良かったのだろうか、とifを考えても答えは出ない。
出会ってしまった。
しかも、もう別れのときまで想定している。

出会ってしまったから、漠然とした未来から明確な自分の限界を感じてしまった。
これは辛い現実です。
それでも、とにかくこの一瞬だけは全力を注ごうと決めて挑んでいる。 
最後の一瞬まで、気が抜けず読み進めてしまいました。


ちなみに、個人的には吉貞くんが好きでした。ちゃんと自分の能力も知りながら、基本お調子者だけど、でも思いのほか冷静に周りを見ている。いやあ、彼は大物です。意外とこういうタイプが大成するのかもしれない。



▽1巻と2巻の感想

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by minori_sb | 2017-06-24 07:30 |

“信頼できない語り手” --わたしたちが孤児だったころ 

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イシグロ作品3作目です。
この作品について、作品そのものを読み終わった直後よりも、訳者のあとがきを読んで「ああ、なるほど」と思いました。


訳者があとがきで触れている『イシグロ作品に常に登場するUnreliable Narrator(信頼できない語り手)』(P412)です。


「日の名残り」も「わたしを離さないで」も主人公の語りで作品が展開されていて、“信頼できない語り手”というキーワードを通すと、ストンと落ちてくるものがあります。 


フロイトが患者の語りを聞いているとき、幼少期における性的虐待のエピソードが患者から出てきて、しかし、実際にはそんな事実はなかったという症例もあったそう。
これについてはいろんな観点から眺めることができますが、実際にそういった事実があったかどうかに着目するのではなくて、患者にとってそういう内的現実があるということに目を向けることが精神分析では大切になってきます。
事実は変わらないけれど、内的現実は変容していけるのです。 


逆にいうと、“語り”って実はとても曖昧で難しい。
同じ事実でも、人が異なると見方は幾通りにも変わってくる。

中学生の頃にリンゴの例えを先生から教えてもらいました。

リンゴに小さな傷がついています。
Aさんは「小さな傷はついているけれど、このリンゴは実においしそうだ」と言い、Bさんは「このリンゴには傷がついている。せっかくのリンゴも傷がついていては台無しだ」と言います

聞き手はリンゴが見えない状態でAさんとBさんの語りを聞くと、同じものを語っているのにリンゴに対する印象は変わってきます。
語りは“騙り”でもある。 


しかし視点を変えて見ると、語りはその人の内的現実がよく表れているのでしょう。
語りは客観的事実ではなく、その人の語りです。
客観的事実を述べたければ、3人称を使えばいい。
(3人称でも、書き手の味はつくし、完全に客観的事実が描かれるかと言ったらそうでもないことも多いけれど。まあそれはさておき)




と、ここまで書いて作品についてまったく触れていないことに気づきました。
わたしは前半の主人公の冷静に見つめようとする語りと、後半の冷静さを欠いた語りに、大きな違和感を感じたからです。
つまり、語り手(主人公)を信頼して読んでいたはずなのに、この語り手を信用していいのだろうかと後半は不安になりながら、ストーリーを追っていました。
探偵という客観的な視点をフルに活用して事件の謎を解いていく職業の人にあるまじきほど、主観的で盲目的といっていいほどの行動をとる主人公に、どうなんだそれと思い続けて、最後にはいろんな意味で裏切られて主人公と一緒に絶望に襲われてしまって。
訳者のあとがきの「信頼できない語り手」にああなるほどと膝を叩いたのでした。



“信頼できない語り手”として、主人公の内的な世界に思いを馳せながら読むと、また違った感触を楽しめるかもしれない、と思いました。
分厚いのでしばらくは読み返さないと思うけど、また再読してみたいです。
そして、次のイシグロ作品は“信頼できない語り手”というキーワードを頭にとめながら読んでみようと思いました。





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by minori_sb | 2017-06-17 07:30 |

「勝負師と芸術家と研究者」 --「あるがまま」を受け入れる技術 何もしないことが、プラスの力を生む

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 映画「3月のライオン前編」のときにチラッと紹介した、心理療法家の故河合隼雄さんと谷川浩司九段(十七世名人)との対談集です。
ずいぶんと昔に、河合隼雄先生の本を片っ端から読んでいるときに、手にとった一冊。
河合隼雄さんはたくさんの方と対談をされていましたが、対談集は村上春樹さんと、この本だけなぜか手もとにあります。 



タイトルの「勝負師と芸術家と研究者」は、谷川さんが『棋士にはどういう素質が必要か』(谷川浩司、P90)というとことで、述べられています。
この3つの素質をバランスよく持っている人が強いんじゃないかと。

谷川さんが次のページでこれは棋士だけじゃなくて企業のリーダーにも求められる資質と、本田宗一郎さんや松下幸之助さんを例にとって挙げられ、河合隼雄さんもあとがきで、これはいい、カウンセラーもこの3つの資質が大切だと改めて触れています。 

研究者の側面と、芸術的なセンスと、そしてときには勝負する度胸も必要。
この3つの資質は、棋士や企業のリーダー、カウンセラーだけでなく、いろいろな職業の人に当てはまるのではないでしょうか。 


表題の「あるがまま」を受け入れる。「無為」の境地ですが、そこに至るまでが、何にもしなくていいというわけではない。


『「何もしない」という考えに到達する前に、しなくてもいいことをやったという経験があるわけです。そういう経験があって、だんだんと「何もしない」ことの大切さが分かってきたわけですね』(河合隼雄、P158)


おふたりともわたしの想像が及ばないほどすごい方だと思いますが、日々ものすごく努力なさっている。
よく「天才は1%の才能と99%の努力でできている」というけれど、才能があっても努力も必要。


『クリシュナムルチの「ものごとは努力によって解決しない」という言葉が好きです。それにしては「お前はいろいろ努力しているではないか」と言われたので、「解決しないとわかっていても、凡人だからせめて努力くらいはさせていただいている」と言ったことがあります』(河合隼雄、P158)


「3月のライオン」でも、零くんはものすごく努力しているからこそ、プロ棋士として活躍できています。
香子と歩のおそらく何倍も。それができたからこそプロになれたのでしょう。
もちろん努力したからといって、それが必ずしも結果に結びつくとは限らないのが現実の厳しいところ(ここが1%の才能なんだろう)。

島田さんも宗谷さんのことを『「天才」とよばれる人間のごたぶんにもれず、サボらない』と言っています。だから差は縮まらない。けれど『オレが「努力しなくていい」って事にはならない』(3月のライオン 4巻 Chapter.39)

うーん、やっぱり島田さんは格好いい。 


わたしも凡人なりに努力はもっとがんばりたいと思います。
疲れてくるとすぐに努力を怠っちゃうのよね。ここが天才と凡人の違いなのだろうな。
努力は「研究者」の側面に位置するかと思います。
でもそれだけじゃなく、「芸術家」と「勝負師」(これ、わたしは足りない気がする!)もこころに留めながらバランスよく。



余談。
たまたま河合隼雄さんの『スクールカウンセリング講演録』をパラパラとめくっていたら、この「勝負師と芸術家と研究者」が取り上げられていました。




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by minori_sb | 2017-06-10 07:30 |

贈り物 --わたしを離さないで


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あとがきに、この物語の謎について書かれている。
イシグロ氏は、大学の教授に「ネタバラシOK」のお墨付きを与えたとのことだが、その教授は学生相手に本書の紹介をするときはやはり謎を明かせなかった、というエピソード。

確かに、この物語の中核である謎を知るのと知らないのでは、読んでいるときのなんだろう? のドキドキ感は全然ちがう。
しかし、物語を語るときはこの謎がないと話にならない。 
まるでミステリーみたいでしょう。
ミステリーではないけれど、少しずつほんの少しずつ明かされていく謎は、この物語を読む醍醐味でもあるのです。


もし、この文章を読んで気になった方は、ぜひ本書を読んでほしい。
できたらそのあとに、この続きを読んでもらえるとさらに嬉しい。


この本を読み終わったときに、ふと思い出したのは、精神科医の成田善弘先生の『贈り物の心理学』という本でした。
『わたしを離さないで』は贈り物の物語だと思いました。


 

贈り物の心理学

成田 善弘/名古屋大学出版会

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以下謎にまつわるネタバレが含まれます。
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by minori_sb | 2017-05-20 07:15 |

たそがれ時 --日の名残り

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はじめてのカズオ・イシグロです。
今年はカズオ・イシグロを読んでみようと。(現在3冊目を読んでいます)



以前NHKでダウントン・アビーという英国貴族のドラマを見ていたので、イメージがしやすかったです。
視覚情報の効果って大きいですね。

特にすごくアクティヴな展開があるわけではないけれど、スティーブンスの真面目な(とっても生真面目な(笑))なかに見られる執事としての品格のこだわり、主人への敬愛する思い、ミス・ケントンとのやりとり、そして道中のイギリスの情景。
どれもしみしみと染み渡ってきます。


ミス・ケントンとの念願の再会シーンも、お互いの礼儀を重んじるなかになんとも言えない気持ちの交流があって、その控えめだけれど相手を尊重する感じがイギリスらしいなあと。(単純にイギリスらしいと言っていいのか悩むのですが…)


終盤の、スティーブンスに声をかけた男の言葉がとっても印象的でした。

「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」(日の名残り P350)

夕方をそんなふうに考えたことがあったかな。
とても素朴で、でもとてもいいなと思います。


日の名残りは、人生の夕方とも言えます。
たそがれ時です。
人生の夕方を、そんなふうに感じられるととっても素敵ですね。



日の名残り (ハヤカワepi文庫)

カズオ イシグロ/早川書房

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by minori_sb | 2017-04-15 07:31 |

アッコちゃんが教えてくれたこと --幹事のアッコちゃん

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アッコちゃんシリーズ第3弾。
アッコちゃんの集大成ともいうべき1冊でした。



アッコちゃんは、基本的に三智子などの第三者の視点から描かれています。
アッコちゃんというパワフルな人を通して、変容していく過程。
アッコさんはある意味触媒みたいな人で、アッコさん自身についてはあまり触れられていませんでした。
なので、スーパーウーマン・アッコちゃんというイメージが強かった。

確かにアッコさんはパワフルでエネルギッシュなスーパーウーマンですが、裏を返すと向こう見ずで行き当たりばったりな人です。
アッコさんのポジティヴな面だけでなくネガティヴな面も取り上げた『アンチ・アッコちゃん』はこれまでにない面白い視点でした。
(まあ、温子さんはアッコさんが実は好きでたまらないんでしょうけど・笑)


もちろんアッコさんはとってもすごい人なんだけど、でも万能じゃないんですよね。
なんにでも全力で真剣に取り組むのは良いことだけれど、誰でもアッコさんみたいにすれば良いってものじゃない。
それはもう、温子さんが見事に証明してくれています。


三智子が成長したのは、アッコさんを目指したからではない。
アッコさんを通して、三智子が自分なりの持ち味を自分で活かせるようになってきたから。

豊かさや幸せ、才能、持ち味って、その人の数だけある。
自分にとってそれはなにか、それを知って、そこをうんと伸ばしていく。


アッコちゃんが教えてくれたことです。







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by minori_sb | 2017-02-04 19:00 |

梅田駅アンダーワールド --3時のアッコちゃん

3時のアッコちゃん

柚木 麻子/双葉社

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アッコちゃんシリーズ第2弾。
実は、この「3時のアッコちゃん」を最初に読みました。


「天然生活」という雑誌に作者の柚木麻子さんが寄稿されていて、そこにこの本が取り上げられていました。
記事には「会議に英国式ティータイムを取り入れる」「ヴィクトリアケーキ」のキーワードがあって、俄然興味が湧いてきました。
高校生のころから英国式ティータイムに憧れを抱いていたわたしとしては、このキーワードに反応しないわけにはいきません。
作者の柚木麻子さんの本も、「本屋さんのダイアナ」以降何冊か読んでいていま気になる小説家さんのひとりです。
柚木さんの描かれる物語は、手の込んだものからジャンクなものまで、とにかく食べ物の描写がいつもおいしそう。


英国式ティータイム会議のお話も面白かったし、アッコさんのキャラはとても個性的。
働く(働こうとする)女性に焦点を当てたストーリーは、どれもそれぞれにうんうんと頷くところがありました。


しかしあえてどれかひとつを選ぶとしたら、それはもう第4話の「梅田駅アンダーワールド」しかないでしょう。
就活時代、受けては落とされ、受ける企業によって自分の価値観をそのたびにカスタマイズして、何度も面接で失敗して、自分は実際のところなにがやりたいんだろうと自問自答する日々。
わたしは、遠征はしたことがないのですが、佐江の心境ってとてもリアルです。


しかし、それはいいんです。(いいのか!?)

こんなに梅田駅がワンダーランドのように描写されていることが、なんというかもう感無量です。
阪急電車も地元民として愛着がありますが、阪急梅田駅をキングス・クロス駅に喩えるなんて考えたこともなかった。
梅田のあのごちゃごちゃした地下世界をこんなに面白おかしく、摩訶不思議に、そして愛情を持って描いてくれてありがとう。
そんな気持ちでいっぱいです。


ちなみにわたしは通学と通勤で梅田駅を利用するようになってから、ようやく、ようやくあの梅田のごちゃごちゃした地下世界がすこしわかるようになりました。
方向感覚はないので、地図じゃなくて『こっちにいけばあっちに繋がる』とかそういうふうに理解しています。
おかげでたまに飲み会でマップを使うと、わけがわからなくなります。
『現在地からJRへ行くにはどのルートが最短なんだろう』とか考えるのも大変です。
わたしにとってほんとうに巨大ラビリンスです。

阪神百貨店の前(佐江ちゃんがどっちに行ったらいいんだろうと、迷ったところ)のあたりは人が恐ろしく入り乱れていて、慣れないときは吐きそうになりました。
地元民でも普段から利用していないとわけがわかりません。動く歩道は止まりません。歩くんです。(物語には関係ないけど、わかる人にはわかるだろう)とか、語りだすと止まらなくなるあたり、やっぱりわたしも地元が好きなのだなあと思いました。
これを読んで梅田へ行くと、とっても面白いと思います。(独断と偏見で)おすすめです!(笑)




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by minori_sb | 2017-01-28 07:50 |

食べることは生きること --ランチのアッコちゃん

今回から3回に渡って、柚木麻子さんのアッコちゃんシリーズを取り上げたいと思います。


アッコちゃんシリーズは、1作目の「ランチのアッコちゃん」からはじまり、2作目の「3時のアッコちゃん」、そして3作目が「幹事のアッコちゃん」です。
今回は1作目の「ランチのアッコちゃん」。


裏の見出しに“ビタミン小説”と書いてあるけれど、まさしくこれは“ビタミン小説”です。
読むほどにかたくなっていたこころが解きほぐれていきます。


アッコさんのキャラクターの強さもさることながら、おいしそうなごはんの描写、それを食べる人たちの息づかい。
ほんのすこしなにかが加わっただけで、こんなにも世界は彩りを増すのだと伝わってきます。


ある看護師さんの言葉。一人で食事をするより、誰かと一緒に食べた方が長生きする。

「誰かと一緒に食事する時って、品数が増えることが多いし、温かい汁物も一緒にとるようになるじゃない。だから、消化が良くなるの。時間をかけてゆっくり食べるようになるでしょう。自然とよく噛むようになるから食べ過ぎなくて済む。いいこと尽くめよ」(第二部 夜食のアッコちゃん)


誰かと一緒に食事するからといって、これが満たされるとは限りません。
でも、できることなら、こういういいこと尽くめの食事を、できるだけたくさんとれるようになりたいですね。

ちなみにひとりでも(わたしはひとりで外食するのも好きです)、こういう心持ちで食事できたらいいなと思います。
ただ胃に詰め込むのではなく、目の前に誰もいなくても、目の前の食事を味わう。
作ってくれた人(料理や食材、いきものたち)に感謝する。



食べることは生きること、はわたしのなかでもテーマなのですが、柚木麻子さんはほんとうにこのテーマを扱うとうまいなあと思います。




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by minori_sb | 2017-01-25 07:29 |

ムスビ、多義性 --小説 君の名は。


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わたしが映画を観たのは9月。
当時から話題になっていましたが、こんなにヒットするとは思っていませんでした。
わたしの周りでも、話題性につられて観にいった人が何人かいます。 



監督の書いた小説ということで、気になって読んでみることにしました。 


ひと言で言うと、これは「君の名は。」というエンターテイメントのひとつです。
映画も、RADWIMPSさんの音楽も、小説も、全部ひっくるめて「君の名は。」を構成している。
小説は映画をそのまま文章化した要素がはじめは強いけれど、途中から新海さんの色が出てくる。
そこにはRADWIMPSの音楽の要素も盛り込まれていて、きっといろんな色が溶け合って、映像のなかでは見せられない言葉だからこそ描ける描写を織り込んでいる。


読んでいると、映画のシーンを思い浮かべるし、音楽も聞こえてくるようだし、きっと小説を読み終わってから映画を観たら、以前観たときと違った心情で観ることになるだろう。
新たな発見をすると思う。 



映画の時には“境界”を強く意識したのですが、小説を読んで今度は“ムスビ”という言葉が引っかかってきました。
ああ、これはムスビの物語でもあるのだ。

一葉おばあちゃんが、瀧くん三葉と四葉ちゃんに話してあげるところです。

「糸を繋げることもムスビ、人を繋げることもムスビ、時間が流れることもムスビ、ぜんぶ、同じ言葉を使う。それは神さまの呼び名であり、神さまの力や。ワシらの作る組紐も、神さまの技、時間の流れそのものを顕しとる」
「よりあつまって形を作り、捻れて絡まって、時には戻って、途切れ、またつながり。それが組紐。それが時間。それが、ムスビ」
(小説 君の名は。 P88)



瀧くんと三葉ちゃんはムスビのなかで出会った。
そして、後半に瀧くんが行ったことは、ムスビの絡まりを解き、また繋げ直すことだった。
そしておそらくそれができたのは、ムスビの神さまにいちばん近いところ(境界)に場所と時間、三葉という存在、すべての条件が揃ったから。



映画を観たときよりも、一歩違った視点が見えてきて、おお! と思いました。新たな発見です。 
名前というのも面白いですよね。名前は、言霊です。
名前はそれだけで強い力がある。
ハリー・ポッターで、名前を呼ぶだけでも恐ろしいといったように、名前を知るということは、その人を知ること、その人の魂に触れることです。



改めて、なぜ「君の名は。」が社会現象になるくらいヒットしたのか考えてみました。

きっといろいろあると思います。
写真のように、それ以上に綺麗な背景。突拍子もない設定。映画を彩る音楽。
マスコミで取り上げられていることって主にこの3点だと思います。


しかし、わたしが思うこの作品の魅力って、解釈の多義性だと思います。

例えば上記3点もそうだけれど、いろいろなところに人を魅了する要素が盛り込まれている。
話の内容そのものも掘り下げていくといろんなところに潜り込んでいけるし、音楽を楽しんでもいい、美しい背景に魅了されても良い。
つまり幅が広いのです。
宮崎駿さんの「千と千尋の神隠し」にも通じるところがあると思う。千と千尋も多義性のある作品です。
だからこそ世界中で受け入れられたのだと思う。


イメージの奥深さ。
こんこんと突き詰めていくと共通項のような普遍性が浮かび上がってくるけれど、その前にあるのは多義性です。



▽映画の感想はこちらです。






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by minori_sb | 2017-01-07 07:35 |


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